堺打刃物の伝統を支えてきた分業制──鍛冶屋、研ぎ屋、そして問屋。それぞれが専門技術を極めて包丁を生み出すこの仕組みも、近年では職人の減少という課題に直面しています。堺孝行ブランドで知られる青木刃物製作所もまた、元は問屋から始まりました。しかし、次世代の技術者を育てるため、独自に社員を職人へ弟子入りさせ、技を継承する道を歩み出しました。
その青木刃物製作所が運営する三宝ファクトリーには、同社の社員のみならず、熟練の職人も集い、日々包丁作りに励んでいます。そして一昨年、若手職人の手で新たな包丁「三宝モデル」が誕生。現場の息遣いと技術への情熱を、職人たちへのインタビューを通じてお伝えします。
鍛冶師の挑戦
堺の伝統を守りつつ、新たな挑戦にも意欲を見せる鍛冶師、田代哲丈さん。青木刃物製作所の鍛冶師として働き始めて4年目ながら、確かな技術と情熱で包丁作りに向き合っています。
「包丁の命は、地金と鋼の二つの素材をどれだけ完璧に併せられるかにかかっています。」と田代さんは語ります。包丁作りの工程では、炉の中で二つの素材を熱し、叩いて一体化させる作業が肝心。熱する温度の管理が何より難しく、低すぎると素材がくっつかず、高すぎると鋼がもろくなってしまいます。
「温度を目で見て判断するんです。これが難しいところであり、一番面白いところでもありますね。」
若手の田代さんは、伝統に敬意を払いながらも、変化を恐れません。「伝統の良い部分を守りつつ、新しい挑戦も積極的に取り入れていきたい。」そう語る姿からは、未来への可能性を感じさせます。
伝統と革新を繋ぐ田代さんの挑戦は、これからの日本の刃物作りの未来を切り開いていくことでしょう。
包丁に命を吹き込む研ぎ師
鍛冶職人が作り上げた包丁に最終的な命を吹き込むのが研ぎ師の役目です。青木刃物製作所で研ぎを担当する戸川誠さんは、包丁を磨き、刃を付ける繊細な工程を担っています。
特に「三宝モデル」の包丁は、霞がかったような美しいデザインが特徴。戸川さんはこの三宝モデルの研ぎを主に任されており、その仕上がりに心を砕いています。「両刃包丁なので、裏表を均等に研ぎ、厚みを程よく削ることで、すっと切れる感覚を目指しています。」
「自分が研いだ包丁を見て、他の人が『これ、いいなぁ』と褒めてくれると、『一生懸命やって良かった』と思えます。それが何よりのやりがいです。」
一つひとつの包丁に注がれる戸川さんの丁寧な手仕事。美しさと切れ味を兼ね備えた三宝モデルの品質は、彼のこだわりと情熱から生まれているのです。
まとめ
「今回紹介した『三宝モデル』の第一弾である鉄シリーズは、『鉄・水・炎』というテーマのもとに誕生しました。この先、残る水と炎をテーマにした新たな包丁が登場する予定です。どのような革新が生まれるのか、今から楽しみでなりません。
三宝ファクトリーは、若い職人たちが伝統を大切にしながらも、新しい挑戦を恐れずに取り組む場です。堺打刃物業界を見ても、青木刃物製作所のように先陣を切って革新的な挑戦を続ける企業は多くありません。その姿勢は、長い歴史に裏打ちされた確かな技術があるからこそ実現できるものです。
これからも青木刃物製作所がどのような未来を切り拓いていくのか、そして若き職人たちがどのように成長していくのか、その歩みに注目していきたいと思います。