
1. おひつとは?
結論から言うと、おひつとは ご飯をおいしく食べるための道具 です。
木でできたご飯専用の保存容器で、余分な水分を吸収しながら乾燥は防ぎ、ほどよい食感を長く保つことができます。炊飯器の保温機能とは違い、ご飯本来の香りと美味しさを楽しめるのが最大の魅力です。
2. 昔からの知恵:おひつの歴史
おひつの歴史は江戸時代までさかのぼり、すでに約400年ものあいだ日本人の食卓を支えてきました。冷蔵庫も電子レンジもなかった時代、人々は木製のおひつでご飯を保存していたのです。
日本人にとってお米は、単なる主食ではなく、文化や暮らしの中心にある特別な存在。新米の季節を祝ったり、祭事や儀式で欠かせないのもその証です。そんな大切なお米をいかに美味しく保つかは、昔から重要なテーマでした。
その答えとして生まれたのが「おひつ」。特に「木曽サワラ」や「桧(ひのき)」は調湿性と殺菌作用に優れており、ご飯を長持ちさせるのに理想的でした。
しかし現代では、米の消費量が減り、さらに保温機能付きの炊飯器が普及したことで、おひつは家庭から姿を消していきました。
出典:農林水産省「食料需給表」
3. それでも今、おひつが見直されている理由
一度は家庭から姿を消したおひつですが、ここ数年で再び注目を集めています。
その理由のひとつは、やはり「ご飯をもっと美味しく食べたい」というシンプルな願いです。炊飯器の保温機能は便利ですが、長時間置くと乾燥したり、独特のにおいがついてしまうことがあります。おひつを使えば余分な水分を自然に調整し、冷めてもべたつかない、まるで炊きたてのようなご飯を味わうことができます。
さらに、保温機能付き炊飯器が普及してまだ50年ほどしか経っていないのに対し、おひつの歴史は約400年。圧倒的に長い歴史が、おひつの実力を裏づけています。
プロの料理の現場でもおひつは欠かせません。たとえば高級な江戸前寿司では、炊き上がったご飯をまず飯台(すし桶)に移して酢を合わせ、シャリを作ります。その後、適度に蒸気が抜けたシャリをおひつに移し、握る分だけ取り出して使います。
寿司屋にとってシャリは命。すべてを「一番おいしい状態で握ること」に注いでいる職人が使うのがおひつなのです。これほど理にかなった道具は他にありません。

4. おひつの使い方
おひつの使い方はとてもシンプルですが、ちょっとしたコツでさらに美味しく、快適に使えます。
1.おひつを軽くぬらす
ご飯を入れる前におひつ全体を水でさっとぬらし、余分な水分を布巾で拭き取ります。こうすることでご飯が木肌にくっつきにくくなります。
2.炊きたてのご飯をほぐして入れる
炊飯器からご飯を取り出す前にしゃもじでさっと混ぜ、余分な蒸気を飛ばします。その後、おひつに移し蓋をします。
3.保存は一昼夜以内に
常温で保存できるのはせいぜい一昼夜まで。それ以上入れっぱなしにするとカビや雑菌のリスクが高まります。残ったご飯はラップに包むかタッパーに入れて、冷蔵または冷凍保存に切り替えましょう。
4.温めなおしは電子レンジ or せいろで
冷めたご飯は電子レンジでも十分美味しくよみがえりますが、せいろで蒸すとよりふっくらして、お米の甘みが際立ちます。
おひつで寝かせたご飯はべたつかず、おにぎりやお弁当にするときに特に違いを実感できます。翌日でもふっくらとした口当たりを楽しめるのがおひつの魅力です。
5. おひつの手入れ方法
おひつは基本的に水洗いでOK。洗剤は不要で、ぬるま湯と道具を上手に使うことで清潔に保てます。
注意点
米粒やぬめりが残っているとカビの原因になります。洗い残しは透明になっていて目視ではわかりにくいこともあるので、丁寧に洗うことが大切です。特に汚れが残りやすいのは 内側の側面と底面。ここを重点的に洗いましょう。
あると便利なアイテム
- たわし(側面を洗うのに最適)
- カルカヤたわし (底面と側面の境目など、普通のたわしでは届きにくい部分に効果的)
・洗浄後のケア
洗い終わったら布巾で水気をしっかり拭き取ります。特に銅のタガが使われている場合、水滴が残っていると錆びの原因になるので要注意です。拭き終えたら風通しの良い場所で自然乾燥させてください。
このひと手間で、おひつは長持ちし、カビのリスクもぐっと減らせます。
6. まとめ
今の時代、何でも時短や効率が優先されがちです。炊飯器からわざわざおひつに移して、洗い物を増やすなんて面倒だと思うかもしれません。
でも、たまには遠回りをしてみませんか。土鍋でご飯を炊き、おひつに移して味わう――そのひと手間には、400年のあいだ日本人が守ってきた知恵と文化が詰まっています。
おひつでよそったご飯は、ただの主食ではなく「特別な一膳」に変わります。忙しい日常の中で、ほんの少し立ち止まって、お米の本当の美味しさを味わってみてください。